— 無線LAN電波調査の実務 —
無線LANの調査を依頼すると、フロア図に赤や緑のグラデーションが重なった「ヒートマップ」がレポートとして納品されます。しかし、この色が何を意味し、どこを見て何を判断すればよいのかは、意外と説明されないままです。読み方を知らないと、せっかくの調査結果が「きれいな図」で終わってしまいます。
本記事では、当社も調査で使用している測定機 Ekahau Sidekick 2 を例に、無線LAN調査で何が測れるのか、そしてヒートマップをどう読むのかを整理します。

1. Ekahau Sidekick 2とは何か
Ekahau Sidekick 2は、無線LANのサイトサーベイ(現地電波調査)専用の測定機です。ノートPCやタブレットに接続し、フロアを歩きながら電波を連続測定すると、測定経路上の電波状態がフロア図に記録されていきます。一般のPCの無線アダプタと違い、複数の周波数帯(2.4GHz/5GHz/6GHz)を専用ラジオで同時に測定でき、後述するスペクトラムアナライザも内蔵しています。Wi-Fi 6E/7で使われる6GHz帯に対応している点は重要で、旧世代の測定機材による過去の調査結果では、6GHz帯の評価ができません。
2. ヒートマップは1枚ではない——主要4種の見方
「ヒートマップ」と呼ばれる図は実際には複数あり、それぞれ見るものが違います。
① 電波強度(RSSI)
最も基本の図で、端末が受信する電波の強さを色で示します。一般に、業務エリアでは-65dBm以上(数字が0に近いほど強い)が快適な通信の目安です。-70dBmを下回るエリアに執務席や会議室があれば、APの位置・数の見直し対象になります。ただし「強ければよい」ではない点が次の図につながります。
② SNR(信号対雑音比)
電波が強くても、周囲の雑音(ノイズ)が大きければ通信品質は落ちます。SNRは信号とノイズの差を示し、25dB以上が安定通信の目安です。RSSIは良好なのに「遅い」と言われるフロアでは、まずこの図を見ます。
③ チャネル干渉
同じ・重なるチャネルを使うAP同士が電波の順番待ちを起こしている箇所を示します。自社APだけでなく、隣接テナントのAPも干渉源として写るのがこの図の価値です。「AP増設で解決」がむしろ悪化を招くパターンは、たいていここで見つかります。
④ データレート(スループット予測)
その場所で期待できる通信速度の予測です。RSSI・SNR・干渉の総合結果として現れるため、経営層への報告にはこの図が最も直感的です。
3. スペクトラムアナライザで「Wi-Fi以外」を見る
ヒートマップに現れない厄介な問題が、Wi-Fi以外の電波による干渉です。電子レンジ、Bluetooth機器、ワイヤレスカメラ、一部のセンサー類は、Wi-Fiと同じ周波数帯に電波を出しますが、Wi-Fiのフレームではないため通常のサーベイには写りません。Sidekick 2内蔵のスペクトラムアナライザは周波数帯そのものの利用状況を可視化するため、「昼休みだけ会議室のWi-Fiが切れる」(=給湯室の電子レンジ)のような、時間帯依存の不具合の原因特定に使います。
4. 実測サーベイと予測サーベイの違い
調査には、現地を歩いて測る実測サーベイと、図面と壁材質からシミュレーションする予測サーベイがあります。予測は新築・移転前などまだ現地で測れない段階のAP配置設計に有効ですが、実際の壁の中の配管・什器・隣接環境までは織り込めません。既存環境の改善や検収を目的とするなら実測が原則、新設の設計なら予測+構築後の実測検証、という使い分けになります。
5. 調査レポートで確認すべき3点
発注側として調査レポートを受け取ったら、次の3点を確認してください。
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測定条件が書かれているか 測定日・使用機材・対象周波数帯・判定基準値。基準値のないヒートマップは判断に使えません
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問題箇所が特定されているか 「全体的に良好」ではなく、弱電・干渉の箇所と原因の推定が図と対応しているか
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改善案が具体的か AP増設・移設・チャネル変更などの改善案が、費用対効果とともに示されているか。機器販売が目的の調査では、増設一辺倒の提案になりがちです
おわりに
ヒートマップは、電波強度・SNR・チャネル干渉・データレートの4種を目的に応じて読み分けるものです。そして調査の価値は図の美しさではなく、測定条件の明示・問題箇所の特定・具体的な改善案の3点で決まります。Wi-Fi 7更改や6GHz帯の活用を控えた今、まず現状を正しく測ることが、過不足のない投資の出発点になります。